寿司と日本酒のペアリング:寿司に合う日本酒とは

基本的には何を組み合わせても相性がいい寿司と日本酒。しかし、日本酒のタイプごとの特徴やペアリングのポイントを理解すると、寿司と日本酒のペアリング体験はさらに豊かになります。

寿司と日本酒は、どのように組み合わせても基本的にはおいしいです。どちらも日本の豊かな食文化の中で育まれてきた食べ物(飲み物)だからです。ただ、吟醸酒、純米酒、濁り酒などの違いを知ると、寿司の味わいはより深くなり、一口ごとに異なる風味が立ち上がってきます。

この記事では、寿司と日本酒のペアリングの基本について、初心者にも分かりやすく解説します。富山県で活躍する利き酒師の池森典子さんに、寿司を楽しむ際にお勧めできる具体的な銘柄と選び方も教えてもらいました。ぜひ参考にしてください。

寿司と日本酒のペアリングの基礎

寿司と日本酒の王道の組み合わせ(ペアリング)について、利き酒師の池森典子さんにシンプルな基本理念を教えてもらいました。

寿司と日本酒のペアリングでは「同調」もしくは「緩和」の考え方が大切で、双方の味わいを寄せ合い共鳴させるか、あるいは、一方がもう一方の角を和らげつつお互いの魅力を引き出すかが重要になってくると言います。

富山県で活躍する利き酒師の池森典子さん

この「同調」「緩和」の考え方を分かりやすくするために、池森さんはさらに、寿司のネタを大きく5つのカテゴリーに分けて、それぞれに合う日本酒の方向性を以下のようにまとめてくれました。

  1. 白身魚やイカのような繊細なネタには辛口で爽快感のある酒を。素材のもつ淡いうま味を損なわずに引き立ててくれる(同調)
  2. 脂の乗ったネタには、キレの良い辛口、または濃醇(のうじゅん)なうま味をもつ酒が適している。コクを受け止めつつ、後味をすっきりとさせ、口の中を整えてくれる(緩和)
  3. 甘エビや白エビ、貝類には、雑味の少ない、透明感のある酒がよく合う。素材本来の自然な甘さを静かに引き出してくれる(同調)
  4. ウナギなど、タレがかかった濃厚な味わいのネタには、うま味が前に出たふくよかな酒が必要。味の厚み同士が共鳴し、満足感のある組み合わせになる(同調)
  5. カボスなどのかんきつで味付けされた寿司には、フルーティーな香りを持つ酒が好相性。さわやかな香り同士が重なり、心地良い余韻を生む(同調)

もっとも、日本酒の守備範囲は非常に広く「これが絶対の正解」という組み合わせはないと池森さんは語ります。好みには個人差があるからこそ、寿司と日本酒のペアリングの探求は尽きることなく面白いのだとか。

寿司と日本酒の定番ペアリング:お勧めの組み合わせ具体例

ここからは、「同調」もしくは「緩和」という考え方をベースにした具体例を紹介します。池森典子さんの地元である富山県の日本酒を例に、実践的なペアリングを提案してもらいました。

白身魚の繊細なうま味を引き立てる日本酒の酸味、赤身魚のうま味に負けない日本酒の力強さ、多彩な具材がある巻き寿司に日本酒を合わせた時に生まれるバランスなどを分かりやすく紹介します。

サーモンの寿司に合う日本酒

サーモン寿司との相性が非常に良い1本として〈満寿泉 純米大吟醸スペシャル〉を池森さんは挙げてくれました。

上品な酒米のうま味が、濃厚でバターのようなサーモンの脂と自然に溶け合い、互いの個性を引き立てます。酒の柔らかさが脂の重さを和らげる一方で、サーモンは酒の奥行きとほのかな甘みを強調します。全体として、調和の取れた満足感のあるペアリングになります。

マグロの寿司に合う日本酒

三笑楽酒造〈三笑楽 山廃純米〉

脂ののったネタと好相性の日本酒として〈三笑楽 山廃純米〉を池森さんは挙げてくれました。濃厚なうま味と、生き生きとした酸味が魚の脂をすっと切り、口の中をリフレッシュします。存在感がありながらネタを圧倒しない、力強さとバランスを兼ね備えた組み合わせです。

ドン ペリニヨンを率いたリシャール・ジョフロワにより創立された酒蔵の〈IWA〉も、マグロの深いうま味に負けない存在感をもつ酒だと池森さんは語ります。複雑で力強いうま味と酸味が段階的に広がり、長い余韻とともに楽しめます。ネタのコクと調和が最後まで保たれます。

清都酒造場〈勝駒 本仕込み〉

〈勝駒 本仕込み〉も、マグロをはじめとするうま味の強いネタとよく合うと池森さんは言います。しっかりとした骨格の味わいを辛口のキレが支え、後味をすっきりとまとめてくれます。

ハマチ(ブリ)の寿司に合う日本酒

スッキリとした辛口でキレのある〈有磯曙 大漁旗〉は、ブリの豊かな脂を洗い流し、口の中を軽やかに整えながら、魚のうま味をくっきりと感じさせてくれると池森さんは語ります。

高澤酒造場〈有磯曙 初嵐 純米〉

同じ酒蔵で造られる〈有磯曙 初嵐 純米〉も、別のアプローチのペアリングを楽しめる1本だと池森さんは勧めてくれました。

有磯曙 大漁旗とは異なる酒米を使った日本酒なので、うま味やバランスの表現に違いが生まれます。同じブリの寿司と合わせて飲み比べると、米や造りの違いが、ペアリング体験にどれほど影響するかがよく分かります。

カリフォルニアロールに合う日本酒

魚津酒造〈UO〉

〈UO〉は、冷やして飲むと、カリフォルニアロールとよく合うと池森さんは語ります。酒の優しい酸味が、マヨネーズの酸味に寄り添います。冷酒にすれば、リンゴ酸がより際立ちます。軽やかで調和の取れた組み合わせと言えます。

皇国晴酒造〈幻の瀧 純米吟醸〉

〈幻の瀧 純米吟醸〉は、しっかりとした酸味の後に、米由来のうま味が広がり、かすかに残る苦味も重なり合って、複雑でありながら、心地良い余韻を楽しめるお酒です。池森さんいわく、その奥行きのある味わいは、カリフォルニアロールのコクと味付けの豊かさを引き立てるといいます。

多彩な具材の巻き寿司に合う日本酒

福鶴酒造〈純米吟醸 風の盆〉

〈純米吟醸 風の盆〉は、巻き寿司全般と美しく寄り添うお酒だと池森さんは勧めます。豊潤で丸みのあるコクと、米由来の深いうま味が、海苔(のり)の磯の香りにそっと重なります。主張しすぎず、米、海苔、具材の味わいが調和して広がっていきます。

スパイシーな寿司に合う日本酒

スパイシーな寿司と合わせる場合、甘口の酒は避けたほうが無難だと池森さんは語ります。甘さと辛さが重なると、バランスが崩れやすくなるからです。

反対に、刺激を優しく和らげる、雑味の少ない酒が適しているそう。雑味の少ない、すっきりとした酒は、辛味を柔らかく抑えつつ、全体の味わいのバランスを保ってくれます。
 

〈勝駒 本仕込み〉のような、透明感と抑制の効いた酒は辛味とけんかせず、全体を整えてくれると池森さんは教えてくれました。

なれずしのようなくせの強い寿司に合う日本酒

なれずしと日本酒

発酵由来の強い風味をもつなれずしには、純米酒や薫酒(くんしゅ)、熟成酒が向いていると池森さんは語ります。薫酒とは、米や発酵由来の華やかな香りを持つ日本酒です。これらの日本酒は、発酵したなれずしの個性的な味わいと酸味を受け止めるだけの深みとうま味を備えています。

成政酒造〈魂を醸す 雄山錦 純米〉

例えば、米・米麹・水のみで造られた〈魂を醸す 雄山錦 純米〉は、重層的なコクと長い余韻を備えるため、なれずしの味わいとゆっくり調和していくと教えてくれました。

冷やVS熱かん:寿司に合う日本酒の温度とは

利き酒師の池森典子さんによると、日本酒の温度は寿司との相性に大きく影響するそう。基本的には、冷やまたは常温が寿司には適していて、冷やや常温であれば、日本酒本来の味が分かりやすく、寿司との温度差も少ないため自然な調和が生まれやすくなります。

一方、熱かんは、米のうま味が強調されるため、ウナギや穴子寿司のような温かく濃い味のネタと相性が良くなります。

池森さんいわく、常温を基本としながら、脂の乗ったネタには、5〜10℃程度に冷やした酒を選ぶと、すっきりとしたのど越しが脂の重さを流してくれるといいます。また、ぬるめの日本酒にすると、寿司の酸味と酒のうま味が美しく同調する場合もあるそうです。

寿司と日本酒に関するよくある質問

寿司と日本酒に関するよくある質問に、利き酒師の池森典子さんが答えてくれました。

どのような寿司が吟醸酒に合いますか?

香りが豊かで洗練された味わいの吟醸酒には、スダチやカボスで仕上げた寿司や、香りを邪魔しない白身魚、イカ、タコ、ホタテなどの寿司が向いています。

どのような寿司が純米酒に合いますか?

米のうま味が前面に感じられる純米酒には、酒のうま味に負けない力をもつ寿司ネタが最適で、脂の乗ったマグロ、カツオ、穴子、ウナギなどが挙げられます。

どのような寿司が濁り酒に合いますか?

やや濁っており、柔らかくクリーミーな舌触りと優しい甘みが特徴の濁り酒は、エビ、カニ、ウニなどの寿司が最適です。濃厚な風味を、濁り酒のコクと優しい甘みがまろやかに包み込んでくれます。

どのような寿司が松竹梅に合いますか?

〈松竹梅〉のような定番酒で、淡麗(たんれい)辛口でキレのある酒は、どんな寿司にも合わせやすいです。ヒラメ、タイ、コハダといったさっぱりしたネタはもちろん、幅広い寿司と合わせやすい特徴があります。

日本酒のおまかせってなんですか?

日本酒のおまかせとは、寿司屋や料理屋の板前に、料理と合う酒を選んでもらう日本酒の楽しみ方です。寿司屋の場合、寿司ごとに、少量の日本酒が次々と出てくるケースが多いです。

おまかせ寿司にはどのような日本酒が合いますか?

板前が選んで出してくれるおまかせ寿司には、料理の味を引き立てながらも、主張しすぎない酒が理想的です。特定の銘柄に絞らず、ネタごとに酒を変えるといいでしょう。

季節性もまた重要な役割を果たします。寒い日には、軽やかな上撰(じょうせん)酒を温めて合わせてください。少量の醸造アルコールを加えた、すっきりとした、透明感と滑らかさのある上撰(じょうせん)酒を熱かんで口にすると、心地良くバランスの取れたペアリングとなります。

一方、他の季節には、辛口の吟醸酒が口の中をさっぱりと整え、コース全体を通してバランスを保ってくれます。

寿司と日本酒のペアリングの旅へ

林酒造〈黒部峡 純米吟醸55〉

利き酒師の池森典子さんいわく、日本酒は懐が広く、ペアリングに唯一の「正解」はないそう。正解がないからこそ、寿司と日本酒のペアリングは奥深く、魅力的なのだとか。

「同調」と「緩和」を軸に、寿司と日本酒の魅力を最大限に引き出す、このような考え方で、無限に広がるペアリングの可能性を自由に探求してほしいと池森さんは語ります。

身の回りでおいしい寿司と日本酒のペアリングを満喫したい場合は、こちらの地図「寿司ニアミー」もご覧ください。

写真提供:中島健太
参考文献

巽好幸、土田美登世『富山のすしは なぜ美味しい』北日本新聞社

講談社インターナショナル『The Kodansha Bilingual Encyclopedia of Japan』

川原和久『読む寿司オイシイ話108ネタ』文藝春秋

岩波書店『広辞苑』

平凡社『改定新版 世界大百科事典』

観光庁『Sushi JTA Sightseeing Database』
Masayoshi Sakamoto

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このマップは、富山の地質、食文化、そして寿司スポットをひとつにまとめたものです。